電王戦THE LAST 第一局 佐藤天彦叡王vs電王Ponanza
佐藤天彦名人・叡王と電王Ponanzaの対局。野球中継と並行して朝からニコ生で見ていましたが、素晴らしい対局、そして記者会見だったなぁと。
ポナンザの初手38金という見たことないような初手ではじまった対局。解説の木村八段が「えっ…」って言ったのはホントに印象深い。こんな初手過去に指した棋士いるのかよと思ってたらコメントで「過去に林葉直子が数局指してる」とのこと。確かにあの人ならやりかねないと思ってしまった…w
対局前は後手横歩取りが大得意の天彦叡王がやはり横歩を選択するものだろうと思ってた(戦型予想アンケでも1番人気でした)ら上述の38金からの相掛かりに。序盤は評価値も五分五分だったところから徐々にポナンザ寄りに触れてきて叡王の88歩で一気に傾いた感じ。
途中2度の機材トラブルで中断を挟みつつも流れは変わらず(COMに流れがあるのかは不明ですが)叡王が持ち時間をほぼ使い切ったところで攻防共に見込みなしで投了。第一局は電王ポナンザの勝利に。
A級1位から名人奪取した昨年、ホントに強かった天彦叡王が王手も出来ずに完敗するとは…いい対局だったけど、分かっちゃいたけど残念でポナンザってやっぱつえーわ。というのが終局直後の正直な感想。
しかし対局以上に素晴らしいと感じたのが対局後にさっきまで行われていた記者会見での叡王の受け答え。全部は書けないので一部抜粋して。
(対局前の事前研究でポナンザと何局くらいやって感触はどうだったか?)
「途中で切り上げたのもあるので正確ではないが短時間の対局で150局ほど。ポナンザの初手が22通りあるので長時間の対局より短時間で数をこなした。正直事前研究で勝てたことはほとんどない。」
(ポナンザは今の棋士の中に入れるとどれくらい強いか?)
「棋士の中でも一番強いと言っていいのではないか。」
この2つの受け答えを現役の「名人」がすることの大きさ。そしてその受け答えが出来る素晴らしさ。
将棋を詳しく知らない人からしたらこの発言は
「名人がコンピュータに負けた。」
「将棋界が人間よりコンピュータのほうが強いと認めた。棋士の権威とは?」
と捉えかねない発言かもしれない。それでも現役最強棋士の一人として臨んで、負けてなお胸を張ってこの受け答えが出来る天彦叡王に正直感動した。
タイトルホルダーとして、名人としてコンピュータに勝ってほしい。そういった大きな期待を感じていて、事前研究でもほとんど勝てなくて、それでも何度負けてもモチベーションは落ちずにポナンザの指す手筋に「こういう将棋があるんだ」「こういった指し手があるのか」と思えたと話す姿は素敵でした。
個人的な話をすると、数年前、少なくとも三浦八段(当時)がGPS将棋に負けたあたりからコンピュータ将棋と人間の対局は異種格闘技戦のようなものだと感じている。源流は同じでも行き着いた先は違うような。剣道対薙刀、あるいは野球対ソフトボールのような。
テレビの企画でソフトボールの投手からプロ野球選手がヒットを打てるかという企画がある。中田翔がアボットから三振しまくるやつ。今の将棋界におけるコンピュータ将棋の立ち位置はこれに近いものだと感じている。
今日の中継で山口恵梨子女流が佐藤四段(当時)がポナンザに初めて負けた時のことを「プロ棋士はプロになるために努力をしてきて、コンピュータ将棋はそれとはまた違う成長をしてきて、女流としてプロで頑張ることの厳しさを知っているから…」と話していたけど、やはりスタートは同じ「将棋」でも今の人間の指す将棋とコンピュータの将棋は違うプロセスを踏んで出来上がった似て非なるものであると改めて感じた。
だから今回の電王戦も人間対コンピュータ、それぞれが違う発展を遂げた将棋で戦う、そういう感覚がある。そしてそれでも、コンピュータ将棋が強いとわかっていても、人間に、天彦叡王に勝って欲しいと思っていたのが今日の心境でした。
第二局は来月半ば。それまでにも名人戦はじめいろいろ忙しい叡王だけど、次局では是非ポナンザに一矢報いる姿が見れることを強く期待している。